アルコール健康障害対策基本法について

2010年5月にWHOが採択した「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を受け、2013年12月に全会一致の議員立法で成立した法律です。わが国のアルコール健康障害対策の基本理念を示し、国や地方公共団体などの責務、10の基本的施策、アルコール関連問題啓発週間(11月10日~16日)の設置などを定めています。
アルコール関連問題は非常に広い分野に及ぶため、対策を進めるのに多くの困難があります。この基本法ができたことにより、省庁間の連携、一般医療と専門医療との連携、地域支援に関わる機関(医療・保健・福祉・警察・司法・自助グループなど)の連携に大きく道が開けました。

 

基本法制定にあたっては、日本アルコール関連問題学会をはじめとする3学会、全日本断酒連盟、ASKなどが、2012年5月にアル法ネット(アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク)を結成。超党派アルコール問題議員連盟とともに法案を検討し、賛同者集めに奔走しました。制定時、賛同議員は109名、賛同団体は371にのぼり、11道県1市が国に基本法制定を求める意見書を提出しています。法案は、衆参両院ともに反対0で採択されました。

 

基本法に記された制定の理由は以下です。

酒類が国民の生活に豊かさと潤いを与えるものであるとともに、酒類に関する伝統と文化が国民の生活に深く浸透している一方で、不適切な飲酒はアルコール健康障害の原因となり、アルコール健康障害は、本人の健康の問題であるのみならず、その家族への深刻な影響や重大な社会問題を生じさせる危険性が高いことに鑑み、アルコール健康障害対策に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、アルコール健康障害対策の基本となる事項を定めること等により、アルコール健康障害対策を総合的かつ計画的に推進して、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止を図り、あわせてアルコール健康障害を有する者等に対する支援の充実を図る必要がある。

 

◎アルコール健康障害対策基本法(平成25年法律第109号)全文
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/joubun_1.pdf

 

2014年6月の施行に伴い、内閣府に「アルコール健康障害対策推進室」が設置。第1期「アルコール健康障害対策推進基本計画」が策定された翌年、2017年4月に、基本法附帯事項に従い、内閣府から厚生労働省に所管が移管されました。

 

●第1期「アルコール健康障害対策推進基本計画」

2014年10月、国の基本計画を策定するため、当事者・家族・有識者・酒造酒販団体を含む「アルコール健康障害対策関係者会議」が招集。3つのワーキンググループが各4回、本会議14回、計26回の討議を経て第1期基本計画がまとまり、2016年5月に閣議決定されました。
内容は、予防から早期発見・介入、回復支援に至る総合的なもので、連携が重視されており、2つの重点課題と目標が設定されました。

 

【重点課題1】飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を徹底し、将来にわたるアルコール健康障害の発生を予防
〔目標〕(第2次健康日本21に準じる)
(1)生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合を、男性13.0%、女性6.4%まで減少させること
(2)未成年者の飲酒をなくすこと
(3)妊娠中の飲酒をなくすこと

 

【重点課題2】アルコール健康障害に関する予防及び相談から治療、回復支援に至る切れ目のない支援体制の整備
〔目標〕
全ての都道府県において、以下がそれぞれ1箇所以上定められること
(1)地域における相談拠点
(2)アルコール依存症に対する適切な医療を提供することができる専門医療機関

 

◎第1期アルコール健康障害対策推進基本計画について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17723.html

 

●第2期「アルコール健康障害対策推進基本計画」

第1期の評価を踏まえて第2期の基本計画を策定するため、2019年10月から2020年12月にかけ、オンラインも併用した9回の「アルコール健康障害対策関係者会議」を開催。第2期基本計画は、2021年3月に閣議決定されました。
内容は、第1期で打ち出した「連携」を、さらに具体的に前に進めるものになっています。
まず、都道府県だけでなく政令指定都市でも、関係者連携会議を「年に複数回実施」することが重点目標に示されました。
早期発見から簡易介入・専門医療・自助グループへとつなげるSBIRTS、地域連携のためのガイドライン、医療連携のためのガイドライン、治療ガイドライン、治療マニュアルなどの作成も示されています。また、アルコール依存症の「治療ギャップ」を解消するため、適切な診療報酬のあり方に関して知見の集積を進めるという記載も入りました。
予防では、「一時多量飲酒」が入り、習慣飲酒でなくても酩酊が関連問題の発生に関与することが示されました。そして、具体的でわかりやすい「飲酒ガイドライン」の作成が打ち出され、酒類業界が容器への重量表示を速やかに検討することになりました。

 

重点課題と重点目標は以下です。

 

(1)アルコール健康障害の発生予防
【重点課題】飲酒に伴うリスクに関する知識の普及と不適切な飲酒を防止する社会づくりを通じて、将来にわたるアルコール健康障害の発生を予防する。
〔重点目標〕(第2次健康日本21に準じる)
・生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合を男性13.0%、女性6.4%まで減少させること
・20歳未満の飲酒をなくすこと
・妊娠中の飲酒をなくすこと

 

(2)アルコール健康障害の進行・重症化予防、再発予防・回復支援
【重点課題】アルコール健康障害の当事者やその家族がより円滑に適切な支援に結びつくように、アルコール健康障害に関する相談から治療、回復支援に至る切れ目のない支援体制を構築する。
〔重点目標〕
・全ての都道府県・政令指定都市におけるアルコール健康障害対策に関する関係者連携会議の設置・定期的な開催(年複数回)
・アルコール依存症に対する正しい知識・理解を持つ者の割合の継続的な向上
・アルコール健康障害事例の継続的な減少を重点目標として設定する。

 

◎第2期アルコール健康障害対策推進基本計画(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000760238.pdf

 

●都道府県アルコール健康障害対策推進計画

第1期基本計画では、全都道府県において「都道府県アルコール健康障害対策推進計画」が策定されることが目標にされていました。2021年11月現在、全都道府県に計画が策定されています。

 

◎都道府県の計画について(アル法ネット)
http://alhonet.jp/local-plan.html

 

第2期基本計画に基づき、都道府県の計画も見直しが進められることになります。
政令指定都市で、推進計画の策定に取り組むところも出てきています。

 

参考になるサイト:

◎厚生労働省<アルコール健康障害対策>
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000176279.html

◎アル法ネット
http://alhonet.jp/

◎ASK<アルコール健康障害対策基本法>
https://www.ask.or.jp/article/177