依存症のための心理療法

「心理療法」、「セラピー」、「カウンセリング」などと聞くと自分とは関係のないことのように思えたり、具体的なイメージが湧かなかったりする方も多いでしょう。依存症には、アルコール、薬物、ギャンブルと様々なタイプがありますが、心理療法は依存症治療に於いて最も頻繁に用いられている治療法です1。では、依存症専門医療機関を受診した場合、どのような心理療法を受けることになるのでしょう?依存症の治療現場でよく用いられている心理療法の代表例として認知行動療法についてご紹介します。

認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)

認知行動療法は依存症の治療に効果(エビデンス)がある心理療法1として世界中の治療現場で用いられています。日本の依存症専門治療施設でも、その呼び名や形態を変えつつ、頻繁に使われています。認知行動療法では、「お酒を飲む」、「薬を使う」、「ギャンブルをする」という行動を続けてしまう理由の一つとして、これらの行動が求める結果(報酬)をもたらすことを学習してしまったからである、と説明します。例えば「眠れないときにお酒を飲んだら眠れた」、「クスリを使ったら嫌なことを忘れられた」、「イライラしていたときにパチンコをしたらスッキリした」などと、気づかぬうちに嗜癖行動と報酬の因果関係を学習してしまうのです。

 

これらの因果関係に加えて、依存の問題を抱える人は「お酒を飲まないと眠れない」、「クスリを使えば、もうひと頑張りできる」、「このパチンコ台(又は番号など)を使えば当たるはず」など依存している物質や行動の効果や結果を強く信じている傾向があります。この様な考え方が、本来は望ましくない行動を、いかにも問題の解決策や日常生活に必要不可欠な物事のように見せてしまうのです。

 

知らず知らずのうちに学習してしまった考え方や行動は、報酬を思い起こさせる引き金に触れると自動的に反応し、強い欲求を生み出します。認知行動療法では、自分にとっての引き金、考え方の癖、行動の連鎖に気づき、意識的に対処するスキルを練習します。このような練習を続けていると、「○○(依存対象物)がないと△△できない」という考え方が、「○○がなくても□□で対処できる」、「私は○○がなくても大丈夫」というように、依存していたものの力ではなく、自分の問題解決能力を信じられるようになっていくのです。

 

認知行動療法で学び、練習するスキルは、入院や一定のプログラムが終わったら完璧に習得できるものではありません。今まで長年の間習慣化してきた考え方や行動パターンを意識的に調節し、新しい考え方や行動パターンを習慣化するためには時間がかかります。認知行動療法で習ったスキルを日々使い続けることにより、回復を助けるライフスタイルを確立していけるのです。

その他の心理療法

認知行動療法以外にもマインドフルネスやソーシャルスキルトレーニング(SST)など各治療施設にて様々な心理療法が提供されています。また、治療機関によっては似た境遇のメンバーと一緒にグループセラピーをする場合もあります。他のメンバーの体験談や気づきから、自分も多くを学べることがグループセラピーのメリットです。心理療法を受けるにあたり、知りたいこと、不安なことなどがある時は積極的に専門医療機関に質問・相談しましょう。

 

1.National Institute on Drug Abuse(NIDA): Principles of drug addiction treatment – a research-based guide (3rd Ed.). NIDA, USA, 2018.