薬物使用による健康のリスク

薬物使用に関する健康問題:HIV感染症およびC型肝炎

薬物使用に関連する健康問題として、ここではHIV感染症とC型肝炎について解説します。

 

HIV感染症について

HIVとは、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)のことです。HIVに感染することで、免疫(体を病原体から守る力)が低下し、健康な人であれば、感染しない病原体にも感染しやすくなり(日和見感染)、エイズ(後天性免疫不全症候群、AIDS)を発症します。HIVに感染してから、数年から10年程度の明らかな症状が現れない状態が続くため、検査を受けないと感染の有無を確かめることができません。日本では年間約1400~1500名の新たなHIV陽性者が見つかっており、その多くが男性同性間の性的接触によるものです。
HIVは、血液、精液、膣分泌液、母乳中に含まれます。したがって、血液へ触れること(輸血、注射器の共用、針刺し事故など)、性的な接触、母胎から胎児への感染がHIV感染の原因となります。一方、唾液、涙、尿、汗には感染が成立するだけのウイルスが含まれていませんので、HIV陽性者と握手をする、ハグをする、キスをする、同じお風呂に入るだけではHIVには感染しません。共同生活においては、血液が付いている可能性のあるもの(歯ブラシ、カミソリ、ピアスなど)を共用しない。また、血液が皮膚に付いた場合は、石鹸と流水でしっかり洗い流す。そして、血液が付着したものは、しっかり包んで捨てるなどの対応が必要です。

 

かつて、エイズは死に直結する病気として恐れられていました。しかし、現在では、治療薬の進歩により、HIVに感染しても治療薬を適切に服用し続けることによって、健康な人と同じ生活を送り、平均余命も変わりなくなってきました。また、早期発見、早期治療により、エイズ発症の抑制や感染拡大防止が可能になります。

 

 

C型肝炎について

肝炎とは、肝臓が炎症を起こした状態のことで、炎症が6ヶ月以上継続すると慢性肝炎と呼ばれます。慢性肝炎の状態が続くと、肝細胞が壊れ、その跡に線維がつまることで硬くなります。その結果、肝硬変や肝がんとなるリスクが高まります。肝臓は健常時の30%まで機能が低下しても、症状が表れづらいため、「沈黙の臓器」と呼ばれています。慢性肝炎の多くは肝炎ウイルスが原因です。その内訳はC型肝炎ウイルス70%、B型肝炎ウイルス20%、その他10%となっています。C型肝炎は血液を介して感染しますが、性的接触によっても感染します。C型肝炎の治療では、従来インターフェロン(注射薬)が中心でしたが、直接作動型抗ウイルス薬(DAA、内服薬)の登場により、近年目覚ましく薬物療法が進化し、多くの人の身体からウイルスを排除できるようなりました。また、インターフェロンに比べて副作用が少ないというメリットもあります。

 

 

これらの感染症と薬物使用との間には、いくつかの関連性があります。第一に、覚せい剤など注射器を用いた薬物使用、そして注射器の共用により、HIVやC型肝炎ウイルスの感染リスクを高めます。注射器の共有を原因とするHIV感染は、全体の0.3%程度にとどまっていますが、薬物依存回復施設の利用者を対象としたモニタリング調査によれば、覚せい剤使用者におけるC型肝炎ウイルス陽性率は30~50%程度と高水準で推移しています1。第二に、薬物使用は判断力を低下させ、コンドームを用いた安全な性行動を妨げる要因となります。結果としてHIVやC型肝炎などの性感染症の感染リスクを高めます。第三に、薬物使用は、抗ウイルス薬の服薬率(アドヒアランス)を低下させ、薬剤耐性ウイルスの獲得や治療の中断に至る可能性があります。例えば、抗HIV薬の服薬忘れリスクは、覚せい剤使用で7.2倍、危険ドラッグ使用で3.7倍高まることが報告されています2

 

HIV感染症や肝炎の治療については、全国に拠点病院がありますので、ぞれぞれのホームページをご覧ください。また、各検査が受けられる医療機関をまとめたサイトもございますので、併せてご活用ください。

 

HIV拠点病院診療案内

http://hiv-hospital.jp/

 

肝炎情報センター

http://www.kanen.ncgm.go.jp/

 

肝炎医療ナビゲーションシステム

https://kan-navi.ncgm.go.jp/

 

HIV検査相談マップ

https://www.hivkensa.com/

 

参考文献:

1.和田清、嶋根卓也、合川勇三、ほか:薬物乱用・依存者におけるHIV感染と行動のモニタリングに関する研究(2017年)、平成29度厚生労働科学研究費補助金(エイズ対策政策研究事業)、2018

2.嶋根卓也、今村顕史,池田和子、ほか:薬物使用経験のあるHIV陽性者における危険ドラッグ使用が服薬アドヒアランスに与える影響、日本エイズ学会雑誌20(1),32-40, 2018