日本における薬物使用・薬物依存の傾向

薬物を使っている国民は何人くらいか?

日本国内に薬物使用者は何人いるのでしょうか。2017年に実施された一般住民を対象とした全国調査1によれば、覚せい剤や大麻といった薬物を少なくとも1回以上使ったことがある国民(15歳から64歳が対象)は、全国で約216万人と推計されています。内訳で最も多いのが大麻です。使用者人口は、全国で約133万人と推計されています。

 

図1に1995年から2017年までの薬物使用の生涯経験率(これまでに1回でも使った経験ある人が占める割合)を示しました。かつては有機溶剤(シンナーなど)が多かったものの、現在では減少傾向にあります。その一方で大麻が増加傾向にあります。大麻使用を誘われる機会も増加していることが報告されているほか、10歳~30歳代の若年層では「少しなら構わない」、「個人の自由」と考える者が増えていることも明らかにされています。これら事実は、大麻取締法違反の検挙者や押収量の増加とも一致する結果であり、国内における大麻使用が拡大していることを裏付けるデータと言えます。

 

一方、2011年頃に「合法ハーブ」などの名称で登場した危険ドラッグは、乱用者による事件や事故を引き起こし、一時社会問題となっていましたが、法的な取り締まりが強化された現在では、減少傾向にあります。また、覚せい剤とMDMAは大きな変化は認められず、横這いで推移しています。

 

【図1】一般住民における薬物使用の生涯経験率の推移(1995年~2017年)

 

薬物依存症の患者さんはどのような薬物に依存しているのか?

では、薬物使用を繰り返し、薬物依存症となった患者は、どのような薬物に依存しているのでしょうか。精神科医療施設を対象とした全国調査2によれば、覚せい剤を主たる薬物とする患者が半数近くを占めることが報告されています。ここでいう「主たる薬物」とは、現在の精神科的症状に関して、臨床的に最も関連が深いと主治医が判断した薬物のことです。図2に1987年から2016年までの動向を示しました。覚せい剤症例が一貫して多いのに対し、有機溶剤症例は年々減少傾向にあることがわかります。2012年に登場した危険ドラッグ症例は、2014年にピークを迎え、その後急激に減少しています。一方、睡眠薬や抗不安薬(多くがベンゾジアゼピン系薬剤)を主たる薬物とする症例がじわじわと増加しており、現在では覚せい剤に次ぐ患者群になっています。なお、一般住民で最も使用されていた大麻を主たる薬物とする患者は、患者全体の数パーセントにとどまっています。

 

【図2】 精神科医療施設における薬物使用障害患者の「主たる薬物」の推移(1987年~2016年)

 

参考文献:

1.嶋根卓也,ほか:薬物使用に関する全国住民調査(2017年). 平成29年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「薬物乱用・依存状況等のモニタリング調査と薬物依存症者・家族に対する回復支援に関する研究」分担研究報告書,pp7-148,2018.

2.松本俊彦,ほか:全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査.平成28年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「危険ドラッグを含む薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究」総括:分担研究報告書,pp101-136,2017.