ギャンブル依存症と重複しやすい精神疾患について

ギャンブル依存症は、国際的な診断基準であるDSM-51では、ギャンブル障害と呼ばれていますので、このページではギャンブル障害という呼称を用います。

ギャンブル障害は、ギャンブルへの病的な執着のために自己のギャンブル行動を制御できず、治療的アプローチがなければギャンブルへの強い欲求が再燃し、やめ続けることの困難な状態です。このため経済的困窮、離婚、親子の不和、窃盗や横領などの犯罪、自殺企図など、重篤な個人的、家庭的、社会的問題を引き起こすことが知られています。表1に、DSM-5によるギャンブル障害の診断基準を示します。我が国では、生涯のうちに成人の3.6%(約320万人)、過去1年間に限っても0.8%(約70万人)で「ギャンブル等依存が疑われる」という調査結果が得られています2。0.8%という数字は、国内の関節リウマチの罹患率(0.6-1.0%)とほぼ同じです(注参照)。とても一般的な疾患であることがわかると思います。

ギャンブル障害の患者さんは、経済的に追い詰められるために、しばしば、うつ不安の症状を呈します。内科や産業医を受診する際には、うつや不安からくる、不眠、食思不振、疲れやすさ、胃痛、吐き気、体重減少、下痢、便秘、頭痛、肩こりなどの、ごくありふれた症状を主訴にされる場合が多いと思います。こういった症状を呈する患者さんに対して、K6日本語版(表2)のような、うつ・不安をスクリーニングする簡便な自記式チェックリストをつけて頂き、得点が高い場合には、続けて、「ひまな時間があるときにはどんな楽しみ方をしていますか」といった問いかけをしてみてください。そのときに、「パチンコをしています」「競馬の予想をしています」といった返答があれば、続けて、日本語版SOGS短縮版(表3)3を施行し、その点数が高ければギャンブルについての専門的相談を勧めていただければと思います。

また、発達障害、注意欠陥・多動性障害、アルコール依存症薬物依存症の患者さんには、しばしばギャンブル障害も併存することが知られています。こういった疾患の患者さんを診た場合にも、上記と同じように、ひまな時間の過ごし方について尋ねて頂き、ギャンブルをされている場合には、日本語版SOGS短縮版を施行し、その点数が高ければギャンブルについての専門的相談を勧めていただけたらと思います。

ギャンブルについての専門的相談を勧める際、相談においては、カウンセリングの中でギャンブルに対する考え方を見直していく、認知行動療法の考え方を取り入れた治療プログラムなど、様々な支援を受けることができることを伝えてください。また、専門的相談とならんで、GA(ギャンブラーズ・アノニマス)のような自助グループに通うことも、回復に非常に有効ですので、身近な自助グループの情報を提供した上で、その出席を勧めて頂けたらと思います。

さらに、パーキンソン病で治療中の患者さんが、その治療のために服用している薬の副作用から、ギャンブル障害を発症することがあると報告されています。パーキンソン病治療中の患者さん、そのご家族への情報提供をお願いいたします。

(注:厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ等対策委員会、山中委員の推定による)

参考文献:

1.高橋三郎、大野裕監訳: DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014

2.樋口 進、松下 幸生 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 障害者対策総合研究開発事業 ギャンブル障害の疫学調査、生物学的評価、医療・福祉・社会的支援のありかたについての研究 国内のギャンブル等依存に関する疫学調査(全国調査の中間とりまとめ)http://www.kurihama-med.jp/news/20171004_tyousa.pdf(参照2018-3-31)

3.田中克俊 厚生労働科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究研究事業)精神障害者の地域ケアの促進に関する研究 平成21年度分担研究報告書 いわゆるギャンブル依存症の実態と地域ケアの促進

 

ギャンブル障害の診断基準は、国際的に広く用いられているDSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル1によれば、以下のとおりです。

A.臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動で、その人が過去12か月間に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している。

(1)興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする欲求

(2)賭博をするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ

(3)賭博をするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある

(4)しばしば賭博に心を奪われている(例:次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)

(5)苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い

(6)賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追いする”)

(7)賭博へののめり込みを隠すために、嘘をつく

(8)賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある

(9)賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む

B. その賭博行動は、躁病エピソードではうまく説明されない。

K6 質問票

過去 30 日の間にどれくらいの頻度で次のことがありましたか。あてはまる欄の数字に○をつけてください。

  全くない 少しだけ ときどき たいてい いつも
神経過敏に感じましたか。 0 1 2 3 4
絶望的だと感じましたか。 0 1 2 3 4
そわそわ、落ち着かなく感じましたか。 0 1 2 3 4
気分が沈み込んで、
何が起こっても
気が晴れないように感じましたか。
0 1 2 3 4
何をするのも骨折りだと感じましたか。 0 1 2 3 4
自分は価値のない人間だと感じましたか。 0 1 2 3 4

判定法:各項目の合計得点を計算する。5点以上の者を「陽性」とした場合、うつ病を含む気分・不安障害のスクリーニングにおいて感度 76~100%、特異度 69~80%、陽性反応的中率 16~25%。

出典:古川壽亮他.厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「心の健康問題と対策 基盤の実態に関する研究」平成 14 年度分担報告書, 2003; 川上憲人他.厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「自殺の実態に基づく予防対策の推進に関する研究」平成 16 年度分担研究報告書, 2005.

 

日本語版SOGS短縮版

設問1.ギャンブルで負けた時、負けた分を取り戻すために、またギャンブルをしたことがある。

1 はい 2 いいえ

設問2.自分に賭け事やギャンブルの問題があると思ったことがあるか、その問題を人から指摘されたことがある。

1 はい 2 いいえ

設問3.お金の使い方について、同居していた人と口論となった原因が、主に自分のギャンブルだったことがある。

1 はい 2 いいえ

設問4.誰かからお金を借りたのに、ギャンブルのために返せなくなったことがある。

1 はい 2 いいえ

設問5.ギャンブルのためか、ギャンブルによる借金を返すために、下記のいずれかからお金を借りたことがある。

①家計 1 はい 2 いいえ

②サラ金・闇金 1 はい 2 いいえ

③銀行・ローン会社 1 はい 2 いいえ

判定基準:上記のうち、はいが2つ以上あれば、ギャンブル障害を疑う

「厚生労働科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究研究事業)精神障害者の地域ケアの促進に関する研究 平成21年度分担研究報告書 いわゆるギャンブル依存症の実態と地域ケアの促進」 より引用