ご家族が心配な方へ

「家族が薬物を使用しているのではないか」「どうやったら使用しているかどうかを見分けることができるのか」と不安や疑問に思うご家族などもいるでしょうが、実際に薬物を長い間使用してきた人や、そういう人が周囲にたくさんいるような環境で生活してきた人でない限り、外見だけで瞬時に判断することは非常に難しいです。家族のなかに薬物を使用している人がいるのではないかと心配になった場合は、次のようなことが起きていないか、現在の生活を改めて振り返ってみましょう。

 

薬物使用を続けていると徐々に現れてくる特徴として、生活リズムの乱れがあります。例えば、覚せい剤を使用している間は過覚醒の状態になり、睡眠も食事も十分にとらずに活発に活動し続けますが、薬物の効果が消失すると、その分の疲れが一気に襲ってきて長時間眠り続けたり無気力になったりします。朝きちんと起きて夜になったら眠るという生活のペースがすっかり崩れてしまうのです。性格傾向では、気分が変わりやすくなったり、ささいなことにイライラしたり、怠惰や無気力が目立ってきたりすることが多いようです。覚せい剤など違法薬物を使用している場合は、不良グループや暴力団とのつきあいが始まるなど、交友関係の変化がみられるかもしれません。また、金遣いが荒くなる、消費者金融から借金を重ねるなど、金銭問題が生じてくるかもしれません。さらに薬物使用が進むと、薬物によっては妄想や幻覚のために暴れたり、大声を出したり、奇妙な言動をしたりすることもあります。粗暴になり、家族に暴力をふるうことも少なくありません。

 

上記のような特徴が複数あてはまる場合は、薬物使用の可能性について考えてみる必要がありそうですが、こんなとき家族はいったいどうすればよいのでしょうか。まず注意したいことは、薬物を使用していると決めつけて、その人を問い詰めたり責めたりしないことです。これらの特徴は、なにも薬物を使用している人だけにみられるものとは限りません。確たる証拠もないのに、家族が疑心暗鬼になって監視監督の目を強めたり、不安に駆られて感情をぶつけたりすると、家族関係の悪化を引き起こすだけで良い結果にはつながりません。説教したり叱ったりすることで薬物問題が解決することはほとんどないのです。解決のためには、薬物問題に関する専門的な知識や助言が必要です。家族に薬物使用の疑いがあると感じたら、まずは勇気を出して外部にサポートを求めましょう。

 

参考文献:

加藤力:家族を依存症から救う本,株式会社河出書房新社,東京,2012.

近藤あゆみ:第8章 薬物依存症者をもつ家族に対する理解と相談支援の方法,編集 和田清,精神科臨床エキスパート 依存と嗜癖-どう理解し、どう対処するか,株式会社医学書院,127-138,2013.