高齢者の飲酒について

高齢者の飲酒問題は増加している

2013年に厚生労働省研究班の飲酒実態の調査で、一般の人にアルコール問題のスクリーニングテストを行い、飲酒問題についての疫学調査が行われました1。AUDITの得点が8点以上だと危険性の高い飲酒とされますが、その割合は、65-69歳男性では約25%、70代男性では約20%でした。70代男性での割合は、2003年、2008年調査に比べて増加していました。

 

人口の中で高齢者の割合が高くなるにしたがって、アルコール依存症を持つ者の中でも高齢者の割合が増加しています。全国にある11の専門治療施設を対象とした調査では、アルコール専門病院の受診者の中での高齢者の割合が増加していることが示されており、平成19年には、男性受診者の4人に一人は60代以上でした2(図1)。また、自助グループの断酒会の統計によれば、全体会員数に占める60歳以上の会員数の比率が、2003年43.8%、2008年53.3%、2017年60.3%と右肩上がりに推移しています3

 

【図1】 全国11専門病院の新規受診者に占める60歳以上の者の数および割合の変化 (文献(2)より)

 

高齢者は少量の飲酒で影響を受けやすい

高齢者では、若年者と比べて、少量の飲酒でも飲酒の影響を受けやすくなります。高齢者では、若年者と比べて体内の水分の占める割合が低く、同量の飲酒でアルコール血中濃度が増加しやすいからです。また、血中濃度が同じでも、中枢神経のアルコール感受性が増加することにより、アルコールの鎮静作用や運動系への作用が強調されます。これらの要因により、高齢者では、比較的少量の飲酒であっても、酩酊、転倒などの問題を起こしやすくなります。

 

自由な時間の増加がアルコール依存症をもたらす

高齢者では高齢者特有のライフイベントがきっかけとなり、アルコール依存症となる例があります。特によく見られるのが、定年退職を機に飲酒量が増えたという例です。若年発症と高齢発症のアルコール依存症者の飲酒問題の契機を比較すると、高齢者では自由な時間の増加がきっかけとなっていることが多いことがわかっています2。また、家族との死別、生きがいの喪失、孤独感など高齢者特有の心理が飲酒問題の原因となることもよく見られます。

 

高齢者のアルコール依存症は認知症の合併が多い

高齢者のアルコール依存症では、認知症を合併する頻度が高くなります。入院中のアルコール依存症の患者さんに対して認知機能検査を行った研究によると、60歳以上では18%に認知症の疑いがあり、25%に軽度認知障害がみられました4。認知症の原因は認知症性疾患の合併など様々ですが、長年のアルコール使用により脳がダメージを受け、脳萎縮が進行することが関係していると思われます。

 

参考文献:

1.尾崎米厚. 「WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究」厚生労働省研究班報告書. 2014; 19-28.

2.厚生労働省科学研究費補助金障害保健福祉総合研究事業「精神障害者の地域ケアの促進に関する研究」平成19年度研究報告書.平成20年4月.

3.躍進する全断連. 公益社団法人全日本断酒連盟機関誌. 2018年1月.

4.O’Connell H, Chin A-V, Cunningham C, Lawlor B: Alcohol use disorders in elderly people-redefining an age old problem in old age. BMJ 327: 664-667, 2003.