依存症と重複しやすい発達障害

児童、思春期期に発達障害の存在に気が付かれずに、大人になってから問題が顕在化する、いわゆる「大人の発達障害」は一般への啓発が進み、精神科の従事者・援助者にとっては日常診療でも出会うことが多い疾患となってきました。

発達障害にはさまざまな疾患が含まれますが、主要なものは、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠如多動性障害(ADHD)の二つの疾患になります。

対人関係、社会性の障害と興味の限局性・常同性を主な症状とする自閉症スペクトラム障害(ASD)は成人の約1%、不注意や多動性・衝動性を主症状とする注意欠如多動性障害(ADHD)は3~4%に認められるという指摘もあり、決して稀な疾患ではありません。

発達障害の人々は社会の中で様々な生きにくさを抱えていますが、専門の援助者に相談をしている人はまだ僅かです。自身が発達障害であると認識していないため、受診や相談をすること自体に思いが至らない人も少なくありません。

もし彼らの前に、その生きにくさを一時的にでも忘れられる「魔法の物質や快楽」があったらどうなるでしょうか?

日々の生きにくさを忘れるために、生きにくい世の中を生き抜くために魔法の物質や快楽を利用しようとする人は珍しくありません。この魔法の物質や快楽として人々を惑わせているのが、アルコール・薬物、ギャンブルなどになるのです。

依存症と聞くと好きが高じて対象から抜け出せなくなると思いがちです。しかしこれは正しい考え方ではありません。

少し考えてみてください。私たちが一番好きな趣味はいくらでも行っても良いけれどもそれ以外の活動はまったくしないように、と指示されたら何日くらいそういう状態を続けられるでしょうか?いくら好きな趣味でも、限度があります。

一方で依存症の人達は、アルコール依存ならアルコールを飲むことを繰り返し、ほとんど食事もとらずに倒れるまで飲み続けることはよくみられます。ギャンブル依存の人達も同様です。彼らは無一文になっても、借金してギャンブルを続けようとします。

依存症になる人たちの多くは、なんらかの生きにくさを感じている中で、それを忘れられる魔法の物質や快楽としてアルコール・薬物・ギャンブルを利用することで日々を生き抜いているのです。

そして徐々にそれらがないと生活が立ち行かなくなり、生きにくさを感じることが怖くなるため、生きていくためにはアルコール・薬物、あるいはギャンブルが必要となってしまうわけです。

発達障害の中でADHDは、衝動的な特性を持ち依存症との合併が多いことが知られています。米国ではADHDの15.2%が物質関連障害を合併しているという研究もありますし、ギャンブル依存症との併存も指摘されています。海外のデータになりますが、治療を求めて医療機関を受診するギャンブル依存症のうち25%はADHDであったという報告もあります。

一方でADHDと依存症は合併を見分けるのが難しいという問題も存在しています。例えば、「衝動的に自分がやりたいことを止めることができない。よく他人から上の空で話を聞いていないと言われる。その場で衝動的に適当な事を言ってしまうことがある」と言われればADHDが連想されます。しかしさらに聞いてみると、「やめようと思っていても気が付いたらパチンコの前に座っている。家族と話していても明日はどの台に座ろうかしか考えられない。家族にはパチンコ屋に行くことは言えていないので仕事に行くと言っている」と言われればギャンブル依存症を考えなければなりません。

ADHDと依存症が合併している場合、一見、ADHDだけ、もしくは依存症だけで説明がついてしまうように見えることは少なくありません(表1)。

表1 ギャンブル障害とADHDの比較

状態 ギャンブル障害 ADHD
イライラしている 離脱 多動
上の空 賭博に心を奪われる 不注意
直近の利益に飛びつく 遅延報酬割引 衝動性
リスクを顧みない 耐性でかけ金が上がる 危険を好む傾向
借金をギャンブルで取り返す 負け追い 忍耐・持続が嫌い

発達障害の患者には依存症の合併を、依存症者にはADHDなど発達障害の合併を意識してスクリーニング検査などを行っていく必要もあるのです。

ギャンブル依存症のスクリーニングではSOGS(サウスオークス・ギャンブリング・スクリーン)がよく知られていますが、最近ではLOSTという4項目でギャンブル依存症をスクリーニングする検査も作成されています。ADHDやASDについても、比較的簡便なスクリーニング検査が、臨床では使用されています。

発達障害と依存症、一つでも大変な疾患なのに併存していれば生きにくさも大きくなります。発達障害と依存症の併存性の障害では、どちらかを先に治療するのではなく両者に同時に介入することが予後が良いとされています。

発達障害と依存症が併存すれば、発達障害と依存症の両者の治療グループや自助グループに加わることが可能となります。治療の継続について考えるなら、より多くの社会資源やプログラムと接する機会があることは有用です。発達障害の症状に対する薬物療法が二次的に依存症の症状を和らげることもあります。依存症の自助グループに通い自身の居場所を認めることで、発達障害による自己肯定感の低下などが緩和されることもみられるでしょう。

いずれにしても、発達障害には依存症の合併を、依存症は発達障害の合併を考えて治療や援助を進めていくことが何よりも重要です。